茨木のり子

「自分の感受性くらい」

という詩に出会ったときは衝撃的だった。
そしてすぐに、「わたしが一番きれいだったとき」という詩に出会い、
茨木のり子さんの世界観が私は好きだと思った。

そしていよいよほかの詩も気になってしまい、茨木のり子詩集 という総集編的な本を購入してしまいました。
ときどき開いてはちょこちょこと読む。


最近の読書はそんなスタイル。
開いては、短編小説などをちょこちょこ読む。
ちょっと外に出て、誰かと出会うような感覚で。


そして最近出会った詩がこれだったのでした。
なんだか何度も読んでしまった。



怒るときと許すとき  

女がひとり  
頬杖をついて  
慣れない煙草をぷかぷかふかし  
油断すればぽたぽた垂れる涙を  
水道栓のように きっちり締め  
男を許すべきか 怒るべきかについて
思いをめぐらせている  


庭のばらも焼林檎も整理箪笥も灰皿も  
今朝はみんなばらばらで糸のきれた頸飾りのようだ  
噴火して 裁いたあとというものは  
山姥のようにそくそくと寂しいので  
今度もまたたぶん許してしまうことになるだろう  
じぶんの傷あとにはまやかしの薬を  
ふんだんに塗って  
  これは断じて経済の問題なんかじゃない  


女たちは長く長く許してきた  
あまりに長く許してきたので  
どこの国の女たちも鉛の兵隊しか  
生めなくなったのではないか?  
このあたりでひとつ  男の鼻っぱしらをボイーンと殴り  
アマゾンの焚火でも囲むべきではないか?  
女のひとのやさしさは  
長く世界の潤滑油であったけれど  
それがなにを生んできたというのだろう  


女がひとり  
頬杖をついて  
慣れない煙草をぷかぷかふかし  
ちっぽけな自分の巣と  
蜂の巣をつついたような世界の間を  
行ったり来たりしながら  
怒るときと許すときのタイミングが  

うまく計れないことについて  
まったく途方にくれていた  
それを教えてくれるのは  
物わかりのいい伯母様でも  
深遠な本でも  
黴の生えた歴史でもない  


たったひとつわかっているのは  
自分でそれを発見しなければならない  
ということだった


 茨木のり子・・・詩集「見えない配達夫」より

海日和♪

南国宮崎の海の香りをあなたにお届け。 夫のサーフショップのお手伝いをする毎日、一人の母として、一人の女性として、日々の徒然を気ままに綴ります。

2コメント

  • 1000 / 1000

  • hiromix

    2017.02.20 01:42

    @sae*kiriコメントありがとうございます😊 茨木のり子さんの詩は、なんだかとても格好良くて好きなんですよね^ ^ そうそう。余韻がいいんです。滅多に触れる機会はないのですが、たまにパラリとめくり触れてみてます♩
  • sae*kiri

    2017.02.19 12:56

    素敵ですね、茨木のり子さん。 詩は断片的ながら凝縮されているので、読み終えた後の余韻がいいですよね。